あの人と再会する、と知ったのは、会も終盤に入った、21時を少し回った頃。再会する、ほんの数分前だった。
二度と会うことはないだろうと思っていただけに、驚きもひとしおで、有希の口からあの人がこれから来るのだと聞いた直後、麻衣子は手に持ったワイングラスの液面が丸々3秒真っ平らを保つ位に固まった。
もちろん硬直が溶けた直後、にっこり笑うのを麻衣子は忘れなかったし、それこそ久々に合った有希も、大丈夫? なんて聞いてきたりはしなかった。
22にもなれば、それぐらいのことで慌てたり取り乱したりはしないものだろう。予期せぬ再会を、ただの知り合いとして迎えることはできる。
たとえそれが、5年ぶりに会うあの人であっても。
再会
それは小さな会だった。個人経営のレストランを貸し切った、招待客30人程度の、ささやかな壮行会。女子サッカー選手として活躍する有希の、そしてこれから新天地へと旅立つ有希の地元の友人ばかりを集めた、本当にささやかな会の筈なのに。
「じゃあ、水野や風祭も来るの?」
「まさか。アイツだけよ、わざわざ向こうから来るの。シゲも馬鹿よね」
何ほどの感慨も込めずに言ってから、有希は別の友人と会話を始める。
あの人が来る理由を知りたい気もしたけれど、会の主役をいつまでも独占するわけにはいかないのだから、仕方がない。改めて周りを見渡すと、室内のインテリアは焦げ茶のアンティーク家具で統一されていて、オレンジがかった照明の色と相まって、暖かな空間を作り出している。
これからあの人が姿を見せるだろうレストランの入り口に、麻衣子は目をとめた。
アンティーク調のガラス戸から覗く景色は、いつの間にか降り出していた秋雨に打ちのめされて、あまりにも暗かった。
天気が悪くなったから、先に帰るわ。
そう言ってさっさと居なくなっても、不自然ではない。あの人が来ないうちに。
不自然? 馬鹿馬鹿しい、もう5年も経つ。なら、あの人は麻衣子のことなんて、もう、忘れているだろう。
あの人は有希の壮行会に来るのだから。あの人はただ、有希に会いに来るのだ。
麻衣子は手にしていたワインをそっと口に含み、ゆっくり飲み下す。
嫌いで別れたわけじゃなかった。
少なくとも、自分は。 あの人のことは、本当に好きだったのだ。
ただしそれは、だった、と過去形にしなければならない程に昔の話。昔の恋だ。
少しの間だけ、と目を閉じると、再び瞼を上げるのが億劫になった。
きっと自分は、少しだけ、酔っている。
蝶つがいの軋む音に、入り口のガラス戸が開いたのだと悟った麻衣子は、ゆるゆると瞼を上げた。
ぼやけた視界にもくっきりと映る、金色の髪。
きっと、酔っているのだろう。目眩に似た浮遊感を覚えた。
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